ドナウ川で29人の自殺未遂者を救った漁師~溺れた人を助ける法的義務はあるか

ドナウ川で自殺を図った人たちを助ける1人の漁師が、いま、話題となっています。

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ドナウ川で29人の自殺未遂者を救った漁師

ドナウ川で自殺を図った人たちを助ける1人の漁師が、いま、話題となっています。

レナト・グルビッチ(Renato Grbic)さん(55)は、セルビアの首都ベオグラードの漁師でレストランを営んでいる、という一見「ふつう」の方ですが、彼は、ドナウ川で自殺を図った人を助けることで、有名になりました。

最近、ドナウ川に飛び込んだ16歳の少女をボートに引き上げて助けたことで、グルビッチさんが救った自殺未遂者は29人となったようです。

雄大で風情のあるドナウ川からは想像もつかないかもしれませんが、ドナウ川に架かるパンチェボ橋(Pancevo Bridge)は、ベオグラードで自殺が多い場所です。

冬のドナウ川の水温は辛うじて0度を上回る冷たさで、15分から20分で低体温症により死亡する、とグルビッチさんは言います。

ここ約20年で29人を助けたグルビッチさんの功績は広くたたえられています。2008年には、目立った功績を上げたセルビア国民、約200人のうちの一人に選ばれました。

溺れた人を助ける法的義務はある?助けようとして相手にケガを負わせたら?

もし偶然川でおぼれていた人をみかけたらーそんな時、日本の法律で、何らかの法的義務が生じるのでしょうか?

まず、当然ですが、刑事民事ともに、基本的に何ら義務は発生しません。もちろん、一部の場合(自分の子供が溺れていた場合など)に救助する義務が生ずる可能性もありますが、基本的に、溺れていた人を放置したとしても、何ら法的な責任は問われません

では、仮にあなたが溺れている人を助けようとして、その人にケガをさせてしまったーそんな場合はどうなるでしょうか?

この場合、問題となるのは「事務管理」と呼ばれる制度です。

あまり聞きなれない言葉だと思いますが、「事務管理」というのは、義務がないのに他人のために事務を管理した場合を法的に規律する制度です。民法の697条以下に規定があります。

溺れていた人を助ける場合、まさに、その人を助ける「義務はない」のに、その「他人」のために、救助という「事務」を管理した場合にあたるので、「事務管理」に当たります。

そうすると、事務管理者は善管注意義務を負うとされていますので、もし助けるときに相手にケガをさせてしまうと、損害を賠償する義務を負うようにも思えます。

しかし、決してそんなことはありません。溺れている人を助ける場合は、事務管理は事務管理でも、「緊急事務管理」に当たりますので、「悪意又は重大な過失」がなければ損害賠償責任を負うことはありません(民法698条)。

したがって、ワザとケガをさせた、なんていう場合以外は、何ら責任は負いません。軽い過失で責任を追及されるとなると、誰も人助けをしなくなってしまいますもんね。

もちろん、法律上は助ける義務は負いませんが、道徳的にどうなのかというと、それは話は別でしょう。グルビッチさんの勇気ある行動は、今後も語り継がれていくことでしょう!

 

この記事の作成者

カケコム編集部