養育費・婚姻費用にまつわる問題を解説!〜養育費の一括払いや前払いは望ましくない!?

養育費・婚姻費用は、離婚に際して生じる大きな問題の一つです。養育費・婚姻費用の額はどのように決まるのか、増額・減額はできるのか、一括払い・前払いはできるのか、支払ってもらえない時はどうすればいいのか…この記事を読んでこれらの疑問を一斉に解決しましょう。養育費・婚姻費用について上田貴之弁護士に聞きました!

目次

そもそも養育費・婚姻費用とは何ですか?

養育費と婚姻費用、どちらも似ていますが、簡単にいうと、養育費は、未成熟子が社会人として自活するまでに必要な費用(生活費、学費等)であり、婚姻費用は、別居中の夫婦の片方(収入の少ない方)と未成熟子が生活を維持するのに必要な費用です。
 
この2つは、夫婦の収入のうち、どれだけの金額を配偶者や子どもの生活費として回せるかという考え方で決められる点が共通していますが、支払時期誰のための生活費かという点で違います。
 
養育費は、夫婦が離婚してから支払う一方、婚姻費用は別居中、つまり離婚が成立するまでの間に支払います。また、養育費は、子どもの生活費であるのに対し、婚姻費用は配偶者と子どもの生活費であるという点でも違います。 

養育費・婚姻費用の決まり方

養育費・婚姻費用はどのように決まりますか?

実務では、今のところ平成15年(2003年)に出された「養育費・婚姻費用算定表」に基づいて、養育費・婚姻費用が決められています。
 
この表が使われるまでは、全夫婦個別に収入や子どもの人数を考慮して養育費・婚姻費用の額を決めていましたが、この決め方では、できる限り早く払わなければいけないはずの養育費等の額を決めるのに何年もかかってしまうという問題点がありました。
 
そこで、様々な統計をもとに「養育費・婚姻費用算定表」が作られ、裁判実務上「算定表」との呼称で用いられ続けています。

ちなみに、算定表は裁判所のホームページで見ることができます。

養育費・婚姻費用算定表の見方を教えてください!

算定表は、あらかじめ何パターンかの夫婦が想定されて数種用意されており、子どもの人数と年齢によって用いるものが変わります。ここで子どもの年齢も見るのは、子どもが大きくなれば食費や教育費が増えるのが通常だという考え方や統計に基づいています。
 
先ほどお話ししたように、算定表は、夫婦等の収入のうち、どれだけの金額を子ども等に配分できるか?という考え方に基づいているため、算定表を使う際には夫婦の収入が重要になってきます。
 
このため、算定表のつくりとしても、まずは夫婦の収入を考慮に入れることとなり、算定表の縦軸は、義務者(養育費等を支払う側)の収入を現し、横軸は権利者(養育費等を受け取る側)の収入を現しています。
 
ちなみに、同じ年収でも給与所得と自営業では養育費等の額は異なります。

同じ年収の場合、給与所得の方が自営業者よりは自由に使えるお金、つまり子ども等の生活に充てることが可能なお金が多いという統計があるためです。
 
もっとも、算定表は、統計データをもとに作成されたため、算定表に表示されている収入も、作成当時統計の裏付けが十分にとられた範囲で区切られていて、義務者の年収が給与所得では2000万円、自営業では1409万円が上限となっています。
 
そのため、これらの額を超える収入を持つ方の場合は、算定表では示されていない上、高額所得者は家庭ごとに子の生活費に充てる割合がばらつきやすかったりするため、単純に、算定表の基礎にある計算式を使うだけで決めていいのか、といった点で争いになることが多いです。
 
以上のような算定表を使った一例を示すと、 例えば、0〜14歳の子ども1人で、義務者の年収が給与所得で600万円、権利者の年収が給与所得で250万円の場合、養育費は、これらのラインが交差する、4〜6万円になります。
 
 
先ほど述べたように、この算定表は平成15年までの統計をもとに作られているのですが、今の経済状況とは合わず、算出される金額が低すぎるという声も多く寄せられていました。
 
とはいえ、従来の個別計算に戻すわけにもいかないという状況を踏まえ、2016年11月に日本弁護士連合会から新算定方式が公表されました。
 
新算定方式が使われたら現在の算定方式より養育費・婚姻費用の増額が見込まれると言われ、近年注目されていますが、新算定方式が使われた例はまだ存在しないようです。

少し大雑把すぎるかもしれませんが、現状は「従来のやり方はおかしいから新算定表を使用すべきという意見を裁判所に出しましょう」と各弁護士に呼びかけている段階といえるでしょう。
 
なお、東京弁護士会が発行している雑誌 LIBRA 2017年 8月号でも、新算定表について特集されています。

養育費・婚姻費用は算定表以上の額をどこまで請求できますか?

算定表は、統計をもとに一般的な生活費と税金などの負担を抜いた金額を子どもの生活費や教育費にいくら回せるかという観点から、養育費等を計算するものです。
 
もちろん、個々の家庭でお金の使い方は異なりますが、算定表を作った際に統計をとったこともあり、家庭ごとのばらつきは、通常、算定表の2万円の幅(先ほどの例の場合、4万円~6万円)でカバーできる範囲におさまると考えられているのが裁判実務の運用です。そのため、基本的には、算定表以上の額を請求することは難しいことが多いでしょう。
 
よく私立大学の学費は請求できないのかと聞かれます。

しかし、裁判所が最終的に審判や判決といった判断を下す場合、このような学費の支払いは認められないことが多いです。

そこで、私立大学の学費を支払ってもらいたい場合には、判決等による解決ではなく、算定表の額に加えて、私立大学の学費を払うという内容の和解をしてもらうよう求め、和解や調停による解決を目指すことになるのがほとんどでしょう。
 
また、このような話し合いがうまくいき、学費を支払ってもらえる場合には、一括払いなのか、分割払い(例えば一年ごとに支払ってもらう等)にするのか、といった点も決めるべきです。
 
これに加え、別れた相手に支払うという性質上、相手を信用しづらいことも多いため、支払う際の細かな条件も含めて和解することも多いです。
 
例えば、支払う側から、受け取る側に対し、支払いの条件として、子どもが大学に在学している証拠になる在学証明書を提出するよう求めたり、入学金の支払いをする条件として、合格通知や入学金の振込通知の提出を求めたりすることがあります。

このほか、学費分のお金を、別れた元配偶者に支払うのではなく、振込通知や納付書を送ってもらい、学校に直接支払うという内容で和解することもあります。

証拠について 

何が証拠になりますか?

相談される方の中には「これも証拠になりませんか」と多くの物を持ってくる方もいるのですが、算定表の考え方の性質上、証拠になるものは限られることが多いです。
 
そもそも、算定表は、生活状況(子の扶養状況)と夫婦の収入をもとに養育費・婚姻費用を算出するためのものです。

そうすると、証拠になるのは、生活状況を示す住民票と収入関係書類、給与所得者であれば源泉徴収票、自営業者であれば確定申告書の控えになることがほとんどです。
 
そのほか、養育費・婚姻費用は性質上過去に遡って請求できないという問題もあるため、請求時を示す内容証明・配達証明も証拠として提出されます。
 
養育費等を争う際の証拠は、これらの証拠提出が必須である一方、他の証拠については、個別事情に応じて証拠になるか否かを厳選していくイメージで考えると良いでしょう。

証拠の見方を教えてください!

源泉徴収票を使う場合は、支払金額(控除されていない金額)の欄の数字を見ます。
 
確定申告書を使う場合は、保険料等を引く前の「所得金額」等を使ってもおかしい一方、実際にお金が支出されていない金額(例えば青色申告控除など)も引かれている「課税所得金額」をそのまま使うのもおかしいです。

そこで、課税所得金額に、実際に支出されていない費用や控除額を足し戻して、養育費等の計算根拠になる収入を定めることになります。

確定申告書を証拠として使うことになる自営業者などの場合、各費用の足し戻しの是非に関する判断が難しいことも多いので、弁護士に相談した方が良い場合も多いでしょう。

証拠の収集はどうやって行いますか?

離婚する場合、相手に自分の収入を示す書類を出したくない方も多いでしょう。
 
そのため、夫婦が裁判所を挟まずに話し合っていても、お互いの収入が明らかにならず、話が前に進まないことも比較的多いです。

このような場合、調停を起こし、調停委員や裁判所から、相手に証拠を提出するよう促してもらいます。
 
相手が「裁判所が証拠の提出を求めているのにこれを出さなかったら心証が悪くなって不利になるのではないか」などと考えて、証拠を出す可能性が高まるからです。
 
また、証拠を出してもらっただけで済まず、本当に収入が全部含まれているのか、他に副業をしていないかなど追求することもあります。

支払終期はいつですか?

養育費は未成熟子の扶養のためのお金であるため、和解で別に約束しない限り、その支払終期は子どもが20歳までとなるのが原則です。
 
しかし、大学生は、多くの場合、大学を卒業する年(通常は22歳)までは満足に働けません。そして、現在は、大学進学率も相当高いです。よって、夫婦の進学状況なども加味しながら、裁判所が、支払終期を22歳と認めてくれることもあります。
 
和解等の際には支払周期を「子どもが大学を卒業するまで」と定めることもありますが、浪人したらどうするのか等の問題もでてくるため、支払終期を子どもの年齢で定めることが多いです。
 
他にも、浪人している期間は養育費を払わない、浪人は一年だけなら認めるなど、そのご夫婦・ご家族の実情や考えに合わせ、調整しながら和解することが多い分野といえるでしょう。

養育費の増額・減額はできますか?

知らない方も多いですが、金額を決めた際に予想していなかった事情変更などがあれば養育費を増額・減額することが法律上可能です。

もっとも、例えば、2年前に元配偶者の収入が変化していたことに気づいた場合でも、その性質上、過去に遡って増額等を請求することは、まず認められません

養育費は生活のために払うお金であるところ、養育費を増額せずとも生活できていた以上、今さら増額等を請求するのはその性質にあわないという考え方が採られているのです。

もちろん、和解で相手が認めれば遡って増額・減額を請求できますが、先ほどの運用がある以上、相手がこのような和解に応じる可能性は低いでしょう。

これらの事情から、いつ養育費等の増額・減額請求をしたかが重要になるため、請求した事実・日時を証拠にして残しておく必要があります。

そこで、増減額を請求する場合には、その請求文書を内容証明で送ったうえ、配達証明もつけて相手に請求した日付を証拠化する必要があります。

その後、任意交渉となり、和解しようとするのですが、任意では和解できず、調停が必要になることも多いです。

養育費・婚姻費用の支払いについて 

養育費・婚姻費用を一括払いで払うことに問題はありますか?

養育費・婚姻費用を毎月毎月払っていくのが面倒なので、養育費を一括払いしたいというご要望を持つ方は比較的いらっしゃいます。しかし、養育費の一括払いは、原則としてお勧めしません
 
先ほどお話しした通り、養育費は、収入などの事情が変われば増額・減額が可能です。

また、養育費は、毎月毎月生活費として使うものなので、毎月毎月払っていく方が望ましいです。

さらに、お金には現在価値という考え方もあります。簡単に言うと、例えば、10年後に1000万円をもらうよりも今同じ額をもらう方が得をするという考え方です。

そこで「10年かけて支払ってもらう総額をそのまま払うのはおかしい。現在価値に引き直した金額に下げるべきだ」などと主張される方がいますが、これを認めると「その分を引いて払ってしまったら、引かれた分の生活費が足りなくなってしまう。どう生活するのか」といった問題がでてくる恐れがあります。
 
実際、養育費を一括で受け取って、これを相手方が使い切ってしまった後に、追加での支払いが認められた審判例もあります。
 
これらの理由から、養育費・婚姻費用の一括払いは、約束したとしてもその合意が無効になることもあり、望ましくありません。

養育費・婚姻費用の前払いの合意をすることに問題はありますか?

「どうしても今月はお金がないので3ヶ月分養育費を先に前払いしてほしい」などと権利者から求められることもあります。
しかし、前払いしたからといって来月、再来月の養育費の支払いが必ずしも免除されるわけではありません。

よって、養育費・婚姻費用の前払いの合意や支払いをすることも、通常お勧めしません。
 
先ほどもお話しした通り、養育費等は決められた額を毎月毎月支払っていくべきであり、この原則から外れて支払うと不利になりやすいと考えておくといいと思います。 

養育費・婚姻費用を支払ってもらえない場合はどうすればいいですか?

養育費・婚姻費用を支払ってもらえない場合、最終的には、強制執行をして、給料や預金を等の財産を差し押さえることになります。

ただし、強制執行をするためには公正証書で合意しているか、裁判所が関わっていることが必要で、公証役場や裁判所を絡めずに二人で作った合意書だけでは、すぐに強制執行することができません。

このような事態にならないよう、養育費等の支払いを合意する際には、公証役場に行き、強制執行認諾文言というものを明記した公正証書で養育費の支払いを約束しておくか、裁判所を交えておくのが望ましいでしょう。

養育費・婚姻費用についてお悩みの方、これから養育費・婚姻費用の請求をする方、養育費・婚姻費用の増額・減額を試みたいという方は、ぜひ上田弁護士に相談してください!

この記事の作成者

上田 貴之弁護士

上田&パートナーズ法律事務所